サタンについて

 旧約聖書はユダヤ教およびキリスト教の正典。「旧約」という呼称は『新約聖書』を持つキリスト教の立場からのもので、ユダヤ教ではこれが唯一の「聖書」。アダムとイヴ(エヴァ)がでてくる『創世記』や、モーセの『出エジプト記』が記される。

 旧約聖書に登場するサタンは、神に反逆し、地獄に落とされた堕天使とは違い、神の宮廷に仕え、神意を受けて人間界に遣わされる、 御使いの一人
 そもそも「サタン」の語義は「敵対する」「妨害する」「告発する」などの意味をもつヘブライ語の「stn」。特定の天使の名前を示すものではなかったそうです。 サタンと最初に結び付けられるのは、ユダヤ教とキリスト教の経典である旧約聖書の『民数記』の第22章、剣を手にして占い師バラムの行く手を妨げる御使い(stn)御使い(stn)は、『出エジプト記』の第三章、神の山ホレブにてモーセの前に炎に包まれた姿で出現し、エジプト脱出を促したような天使然とした者ばかりではなく、 妨害などの負の目的のもと送り込まれた者たちも多いそうです。
『士師記』では不当にシケムの王となったアビメレクに、
『サムエル記』では神の律法に背いたイスラエル最初の王サウルに、 神は悪しき霊を送り込んで不和や不安を引き起こし、
『ゼカリヤ書』では、サタンと名指される天使が大司教ヨシュアを天の法廷に訴え、
『ヨブ記』では、サタンは自由意志で地上を見て回る御使いであり、神に仕え、人間の行状を調査する検察官的な役目を果たす存在とされており、 ヤハウェから信仰心の篤い義人ヨブについて聞いた御使いは、神の許可を得て二度の試練をヨブに与え、その信仰心を試しています。
こうした「サタンによる試し」のモチーフは、新約聖書にも、イエスを荒野に連れ出して40日に渡り様々に誘惑したエピソートにも見られます。

 旧約聖書におけるサタンの立場は、人間に対する敵対者、妨害者であり、神の宮廷の一員。これが新約聖書になると、神に敵対する悪魔についての言及が大量に現れます。
 旧約聖書での人間に対するヤハウェの振る舞いは、時に理不尽でした。
『創世記』ではヤコブに一晩中格闘を挑み、
『出エジプト記』では自らエジプトに赴かせたはずのモーセに襲い掛かり、そして、有名な十の災い、水を血に変え、蛙を放ち、ブヨを放ち、虻を放ち、 疫病を振りまき、腫れ物を生じさせ、雹を降らせ、イナゴを放ち、エジプトを暗闇で覆い、長子を皆殺しにします。
『サムエル記 下』ではダビデ王はイスラエル全部族の人口調査をした結果、7年間の飢饉か、3ヶ月の外敵侵入か、3日間の疫病か、何れかの罰を受け入れよ、と神にいわれます。 が、そもそも人口調査を命じたのは神本人だとか。なぜ、こんな矛盾があるのか、少し調べてみると、どうもユダヤ教においていろんな派閥があり、それぞれ主張するものが書物に存在しているそうで。 こういった書物はどんな異端なものでも燃やしてはならないという掟があるそうで、よって、アダムとイヴからはじまる系図にも矛盾が生じているとか。
 このようなことにより、神の善性に対して疑問が生じてきます。そこで、こういった理不尽な行為は神の本意ではなく、邪悪な御使いによるものだという考えが生じます。
『暦代誌 上』の執筆者はダビデの人工調査をさせたのはサタンであったと、『サムエル記』の記述を改変。
 旧約聖書と新約聖書の間の時代にユダヤ教徒の国イスラエルは分裂し、紀元前597年にはバビロニアの”ネブカドネザル二世”がヘブライ人の有力者たちをバビロニアへと 連行するバビロン捕囚が起きる。そうした社会不安の中、善悪二言論の闘争神話を説くゾロアスター教の影響がペルシアより伝わる紀元前3世紀から1世紀にかけて、 天から追放された堕天使と神の軍勢の闘争をモチーフとする『黙示録』が集中的に出現します。

 死海北西のクムランの近くにある洞窟郡から1947年に発見された約850巻の写本(死海文書)を遺した教団はユダヤ教の一派エッセネ派に関わりがあるものと考えられ、 同志的結合によって結ばれた教団の者を光の子とみなし、彼ら以外の人間は堕天使ベリアルサタンと同一視)にくみする闇の子であるとして閉鎖社会を築いたカルト教団とされ、 新約聖書においてナザレのイエスに洗礼を施し、救世主の目覚めを促した洗礼者ヨハネは、エッセネ派もしくはクムラン教団の幹部とも考えれています。
 W・R・モルフィルの刊行した『スラヴ語エノク書』の英訳書『エノクの秘密の書』にはサタナイルという堕天使が登場します。 天地創造の二日目に他の天使たちと共に生み出された大天使サタナイルは、神に成り代わろうという大それた望みをいだいたため天から投げ出され、底なしの場所の空を いつまでも飛び回ることになり、その名前もソトナ(Sotona)となってしまった。
 彼の叡智は失われておらず、追放によって自らの罪深さを意識していたが、それが故にこそ嫉妬の念を抱き、エデンに住まうイヴを通してアダムを堕落させる。 この書物によれば、地上を見守る任務を担う200万の天使団エグリゴリの指導者もまたサタナイルサタナイルエグリゴリを煽動して人間と交わる罪を犯し(他の『エノク書』におけるアザゼルと一致)、その一党と、人間の女との間に生まれた巨人ネフィリムと共に第五天に幽閉されています。
 そして、10世紀頃にブルガリアにおこる、東方正教会を悩ませた異端ボゴミール派の教義は、キリストの兄である天の副王サタナエルが神に背いて天を追放され、第二の神となるべく地上を創造したというもの。 名前も神を現すエルがとられ、”サタン”となった。
 『エノクの秘密の書』は、ボゴミール派の関係者が『エノク書』を基に捏造した偽書ではないかといわれています。

 一世紀ごろに著された『ヨハネの黙示録』の「この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経た蛇」という文によりサタンのイメージが決定的なものとなりますが、この時点においてすら 魔王サタンの名は、マステマサマエルアザゼルベリアルベルゼブブなどの堕天使と同一視されます。
そして、五世紀に入り、高名な神学者が「イザヤ書」の中に堕天使ルキフェルの”存在を解釈”し、ルキフェルサタンと同一視される最有力の堕天使となります。
(これらの文は『「堕天使」がわかる』坂東真紅郎[著]、ほかネット上の書き込みより、引用)