マステマは旧約偽典『ヨベル書』に出てくる、ヘブライ語の「敵意」に由来する天使。死海文書の『戦いの書』『ダマスコ文書』にも
マステマの名が敵意の天使として現れます。
『ヨベル書』は創世記1章から出エジプト記12章までが描かれており、『小創世記』といわれているそうです。
エグリゴリたちが人間の娘たちに惹かれ、ネフィリムや悪霊が生まれてしまう。この出来事で、エグリゴリたちは幽閉されることとなり、
大地は荒廃し、人は堕落したので、ノアが600歳のとき、神の怒りにより、浄化のため大洪水が起こる。
それから二世代分の時がたったころ、ネフィリムや悪霊たちがノアの子孫たちを再び脅かし、道を踏み外させて、互いに滅ぼし合いを行わせた。
ネフィリムにはエルバハ、ネピル、エルヨの三種の種族がいるようで、エルバハはネピルを、ネピルはエルヨを、エルヨは人類を、人類はお互いを
殺しあったという。
ノアの祈りを受けた神は邪悪な者たちの捕縛を天使達に命じるが、このとき、マステマが神に懇願する。
「彼らのうち何人かは私に残してください。彼らはわたしの決定に従い、堕落させたり、
滅ぼしたり、迷わせたりするのが役目です。人の子らの悪事にははなはだしいものがあります」
神はこれを了承する。「彼らのうちの十分の一は彼(マステマ)の前に残り、あとの十分の
九はさばきの場所にくだるのだ」
神の許可を得たマステマは精力的に働き出す。悪霊たちをつかって人間たちに罪を犯させ、堕落させ、自滅させ、
流血沙汰などの不法行為に手を染めさせる。鴉などの鳥もマステマに従い、畑にまかれた種と木の実をことごとく
ついばんで長い不作をもたらす。
エジプトのファラオ王がヘブライ人の男児殺害を命じたとき、辛くも生き延びてミディアンへ逃れた預言者
モーセは、ヘブライ人を救い出そうと再びエジプトの地に現れる。マステマはエジプト側についてモーセを殺害しようと試みる。
ヘブライ人がエジプトから立ち去る許可をファラオに求めたモーセとその兄アロンは、ファラオの求めに
応じてエジプト人の魔術師たちと様々な魔術比べを行ったが、マステマはエジプト側の魔術師を陰から援助。
その後、モーセに率いられたユダヤ人たちがエジプトから出発したとき、マステマは神によって五日間の行動を制限されるが、
解き放たれた後は軍勢を繰り出して追跡するようエジプト人たちを唆し、支援する。
しかし、マステマはエジプト人ばかり肩入れしたわけではなく、ユダヤ人たちが過越祭を祝った一月十五日の夜、
マステマとその軍勢の矛先はエジプトに向けられ、門に当歳の羊の血で印をつけていた家を除くエジプトの
あらゆる建物、あらゆる畜舎の長子を殺害。旧約聖書『出エジプト記』の信徒の間に神の善性について論議を巻き起こした
初子殺しをはじめ理不尽な行為は、こうして『ヨベル書』にてマステマに負わされることとなります。
黙示的なユダヤ教の教派、エッセネ派の『光の息子たちと闇の息子たち』には「天使マステマよ、お前は、
サタンを深淵に落ちるべきものとして創造した」という一文があるといいます。
(これらの文は『「堕天使」がわかる』坂東真紅郎[著]、『「天使」がわかる ミカエル、メタトロンからグノーシスの天使まで』森瀬 繚[著]、他ネット上の書き込みを引用)